高松高等裁判所 昭和41年(行コ)9号 判決 1969年5月23日
松山市大街道二丁目一四番地
控訴人
日野喜助
右訴訟代理人弁護士
米田正弌
同
泉田一
同
山田貞治郎
高松市天神前二番一〇号
被控訴人
高松国税局長 奈良武衛
右指定代理人
高松法務局訟務部検事
叶和夫
同
高松法務局訟務部第二課長
中川安弘
同
高松国税局大蔵事務官
奥村富士雄
同
同
小野正夫
同
高松国税局国税訟務官
水沢正幸
右当事者間の所得税更正決定取消請求控訴事件につき、当裁判所は次の通り判決する。
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三六年一〇月三日なした、昭和三三年度分の控訴人の総所得金額一、一一一万六、一七一円、税額四七四万四、三五〇円とする審査決定及び昭和三四年度分の控訴人の総所得金額一、三〇四万三、一二二円、税額五八三万四、七〇〇円とする審査決定はいずれもこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人指定代理人は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張並に証拠の提出援用認否は次の点を附加するほか原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(但し原判決事実摘示第三「被告の答弁と主張」の中(主張)の項の二の(二)の2の五行目の「〇・八二」とあるを「〇・九二」と同第四、二、(一)3の一行目「原告主張」とあるのを「被告主張」と各訂正する)。
(控訴人の主張)
一、控訴人の収入について
控訴人のパチンコ事業収入金の算出は、控訴人方パチンコ機械一台一日の収入金(昭和三三年度七三三円、同三四年度六七五円)に年間営業日数である三五〇日を乗じ、更にこれに年間平均機械台数を乗じてするのが最も合理的である。被控訴人主張の所謂比率法によつた場合は右収入金額が著しく過大となる。このことは仮に砂川証言中にある訴外共栄パチンコ店と控訴人のホームランパチンコ店との入場者の比率六八・五パーセントを採用した場合の控訴人のパチンコ収入金よりも、右比率法によつた場合の収入金が、昭和三三年度に於て七〇四万二、五二六円、同三四年度に於て五六五万一、一〇四円過大となることからも明らかである。尚パチンコ店に於てはパチンコ機械の修理、入替、休日等により年間少くとも一五日の休業は避けられないから、年間営業日数は三五〇日が相当であつて、被控訴人主張の如く年中無休ということはあり得ない。
二、雇人費について
1 モナコパチンコ店は控訴人の経営にかかるものであるから、同店舗焼失後、同店舗の従業員をホームランパチンコ店に於て使用した場合、その給料は控訴人の営業の必要経費として所得より控除すべきである。
2 又仮に被控訴人主張の煙草小売業が訴外浅海和嘉の営業でなく控訴人の営業と認められるとすれば、右小売業の為に雇入れた者に対して控訴人が支払つた給料は控訴人の所得より控除されなければならない。そして右小売業の為の雇人の給料は昭和三三、三四両年度共一日一、〇〇〇円であるから、年間三六万五、〇〇〇円である。
三、譲渡所得について
控訴人は東京穀物取引所会員として穀物取引を行つた結果三年間に二、〇〇〇万円の損失を蒙つたから、右会員権の譲渡による所得から、当該年度の損失六六六万六、〇〇〇円を控除すべきである。
四、災害補償費について
1 現行所得税法四五条一項七号によれば、「故意又は重大な過失による場合を除き支払つた損害賠償金はこれ等の所得の計算上必要経費に算入される」ことになつており、又本件当時の同法一〇条二項によれば「九条三号、四号、七号乃至一〇号の規定、その他の経費で当該収入金額を得る為に必要なものは必要経費と認める」とある。「その他の経費」と規定したものの中に現行法の損害賠償金も含まれているとみるべきである。控訴人がモナコパチンコ店の火災による損害賠償をしなければ同控訴人個人はもとよりその家族の生存もおびやかされ、ブラジルへ逃避することさえ考えたのであり況んやホームランパチンコ店の経営など到底出来なかつたもので、従つて右賠償はパチンコ店経営を継続する上に必要欠くことの出来ない支出であつたことは明白である。これを必要経費とみるか或は雑損とみるか何れにせよこの支出を控除しないことは余りに苛酷な処置といわねばならない。
2 仮に右主張が認められない場合、控訴人は次の通り主張する。
モナコパチンコ店は控訴人の経営にかかるものであるが、昭和三三年二月一一日火災を起し、これによつて控訴人は次の如く合計一、三六八万五、〇〇〇円の損害を蒙つたので、昭和三三年度所得より右金額を雑損として控除すべきである。
(1) パチンコ機械三八六台 単価七、〇〇〇円 合計二七〇万二、〇〇〇円
(2) パチンコ玉 八〇万個 単価一円三〇銭 一〇四万円
(3) 煙草 五三万二、〇〇〇円
(4) 景品 五三万二、〇〇〇円
(5) 玉磨機 五台 単価二万円 一〇万円
(6) 景品メーター玉代ほか 一〇万円
(7) ボツクス 三八六 単価一、五〇〇円 五七万九、〇〇〇円
(8) 暖房設備一式 一〇〇万円
(9) 冷房設備一式 二一〇万円
(10) 備品 二〇〇万円
(11) 電気器具 一五〇万円
(12) 家具類 一〇〇万円
(13) 金庫在金 五〇万円
(被控訴人の主張)
一、収入金について
パチンコ機械一台当りの収入金が入場割合に或程度比例することはあり得るが、入場割合のとり方は複雑困難であつて、入場割合より収入金を計算する場合には更に綿密な検討が必要である。本件に於て原審証人福島渉の証言による、共栄パチンコ店の入場割合を一〇〇とした場合の控訴人方パチンコ店の入場割合は七六・八パーセントとなるから、この割合により控訴人方パチンコ機械一台当りの収入金を計算すると、昭和三三年度三二万七、八二三円、同三四年度三一万九、八九一円となつて、却つて被控訴人のした推計が過少となる。
二、譲渡所得について
東京穀物取引所会員権譲渡による所得と、右会員権に基づいて行つた穀物取引による事業所得とは彼此混同して取扱うことは許されない。控訴人のこの点に関する主張は失当である。
三、雀球損について
雀球は昭和三四年頃新に流行し始めた遊技であり、訴外日野博行が意慾的に研究開発したものであつて、本件省球の営業主体は日野博行である。従つてそれによる利益、損失は控訴人の所得に関係はない。
四、雇人費、災害補償費について
1 控訴人はモナコパチンコ店の従業員に対する給料及び同店の火災による災害補償費を控訴人の事業所得より控除すべきであると主張するが右パチンコ店の営業主体は日野産業株式会社(以下単に日野産業という)であるから右支出は控訴人の所得計算には何等関係はない。
2 控訴人はモナパチンコ店の経営主体を当初日野産業であると主張し、被控訴人はそれを認めたが、その後に至り控訴人は右主張を撤回し右営業主体は控訴人自身であると主張するに至つた。然し右は自白の撤回に該当するので、前の主張が真実に反し且錯誤に基づくものであることの証明がなされない限り許されないものである。
3 日野産業の法人税確定申告書(乙第二号証の一乃至三、同第三号証の一乃至三)の記載によりモナコパチンコ店が同会社の経営にかかることは明らかであり右申告書が税理士の錯誤に基づいて作成されたとする控訴人の主張は甚だしく失当である。
4 控訴人は右災害補償費のほかモナコパチンコ店のパチンコ機械その他の資産の焼失による雑損控除を主張するが、右パチンコ機械その他の資産は日野産業の購入した資産であり、その損失は同会社の確定決算に損失として計上されているから控訴人の資産ではなく雑損控除の対象とはならない。
仮に右資産が控訴人の資産であり所得税法一一条の四の雑損控除の対象となるとしても、控訴人は右控除に関する事項を同年分の確定申告書に記載していないから右金員を所得から控除することは出来ない(同法二八条)。
5 控訴人は昭和三三、三四両年度の煙草販売に関する人件費三六万五、〇〇〇円を主張するが、控訴人が煙草販売のみに雇傭した人員はなく、パチンコ従業員が交替でこれに当つていたもので、その給与は被控訴人が原審に於て主張した雇人費の中に含まれているから、控訴人の右主張は失当である。
(証拠)
控訴人は甲第二八号証、第二九号証の一乃至五を提出し、当審証人宮内勇、同松崎力男、同浅海一郎、同森実、同村下美芳、同日野博行の各証言並に控訴本人の供述を援用し、乙第二一号証の成立を認めた。
被控訴人は乙第二一号証を提出し、当審証人浜崎正己、同中山常雄の各証言を援用し、甲第二八号証、第二九号証の一乃至五の成立は何れも不知と述べた。
理由
一、控訴人は松山市湊町三丁目に於てホームランの屋号でパチンコ業を営んでいたが(以下右店舗を本件パチンコ店ともいう)松山税務署長に対し、昭和三三年度所得につき七〇〇万円の欠損である旨申告し、又昭和三四年度所得につき所定期間内に申告をしていなかつたところ、同税務署長が昭和三五年五月一日控訴人に対し(一)昭和三三年度課税所得額一、四一五万四、九〇〇円、所得税額六四九万二、六九〇円とする更正及び(二)昭和三四年度課税所得額一、六七五万七、一〇〇円、所得税額七九二万六、九〇〇円とする決定をなし、これに対し控訴人は同月二六日同税務署長に対し再調査の申請をしたところ同署長は棄却決定をしたこと、そこで控訴人は同年八月一一日被控訴人に対し審査請求をしたところ、被控訴人は昭和三六年一〇月三日当初の更正等の処分の一部を取消し、(一)昭和三三年度総所得金額一、一一一万六、一七一円、課税総所得金額一、〇九七万六、一〇〇円、税額四七四万四、三五〇円、(二)昭和三四年度総所得金額一、三〇四万三、一二二円、課税総所得金額一、二九五万三、一二二円、税額五八三万四、七〇〇円とする審査決定をしたこと、以上の点は何れも当事者間に争はない。
二、そこで被控訴人のなした右審査決定の当否について検討する。
(一) 先ず被控訴人が右両年度の控訴人のパチンコ事業所得の認定に当り、景品の仕入額から収入金を推計する方法によつたことが正当であり、且その推計方法も合理的であると認められること、控訴人主張の、パチンコ機械一台の一日の平均収入金額を基礎として年間収入金額を推計する方法の採用し得ないこと、而して右景品仕入額から推計する方法によつた場合の控訴人のパチンコ事業収入金が、昭和三三年度に於て二億〇、四一一万五、〇一〇円であり、同三四年度に於て二億一、五六五万四、八六六円となること、控訴人の五女である訴外浅海和嘉名義で行われていた煙草小売業が少なくとも昭和三三、三四年度に於ては実質上控訴人の営業であり、而して同小売業による収入金は右両年度共七三万円であつたこと、控訴人の右両事業の為の仕入金(パチンコ景品の買戻分を含む)合計額は、昭和三三年度に於て一億六、五一七万二、三六四円、同三四年度に於て一億七、三三六万〇、一九八円であること、右両年度共年初、年末の棚卸商品額が何れも六〇万円であつたこと、従つて右事業所得は昭和三三年度に於て三、九六七万二、六四六円、同三四年度に於て四、三〇二万四、六六八円であること、以上の点に関する当裁判所の事実認定並に判断は次の点を附加するほか、原判決理由中これ等の点に関する説示(原判決理由第三項及び第四項〔但し「事業収入金」の項の(一)の6を除く〕)と同一であるから、ここにその記載を引用する。(但し原判決理由第四項中の「事業収入金」の項の(一)の1の一四行目及び(二)の2の五行目の各「〇・八二」とあるを「〇・九二」と、右(一)の2の一三行目の「それが」とあるを「右明治商事株式会社ほか二社からの仕入額を合すると」と、右(二)の1の一一行目の「そして原告は」から同一四行目「云々が認められる。」迄を「煙草の仕入代金を自ら支出し、又その売上金も控訴人に於て取得していたことが認められる。」と夫々訂正する。)当審に於ける証人浅海一郎の証言及び控訴本人の供述によるも以上の判断を左右するに足りない。
(二) 控訴人は前記認定のパチンコ収入金額は控訴人方店舗と共栄パチンコ店との客の入場割合(前者が後者の六八パーセント)を前提とした場合の共栄パチンコ店の収入金額に比して著しく過大であると主張するので考えるに、原審証人村下美芳、同砂川瓢の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の一、二、三、第八、第九号証の各二によると、共栄パチンコ店(村下美芳経営の共栄クラブ、共栄ビル及同人の父親村下常盤経営の共栄会館の三店舗を合したもの、以下同じ)のパチンコ機械一台当りの年間総収入金額は昭和三三年度四二万六、八五三円、同三四年度四一万六、五二五円であり、控訴人の本件店舗と共栄パチンコ店との客の入場割合は右両年度共、前者は後者の六八・五パーセントであること、右共栄パチンコ店の機械一台当りの年間総収入金額に右入場割合六八・五パーセントを乗ずると控訴人の本件店舗のパチンコ機械一台当りの年間総収入金額が得られ、その金額は昭和三三年度二九万二、三九三円、同三四年度二八万五、三二〇円となり、これに控訴人の本件店舗のパチンコ機械の年間平均台数(昭和三三年度六七四台、同三四年度七三六台であることは成立に争ない甲第一三号証、原審証人浜崎正己の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の二、同第七号証の三によつて認められる。)を乗ずると、昭和三三年度総収入金一億九、七〇七万二、八八二円、同三四年度二億〇、九九九万五、五二〇円となつて、前記(一)に認定の控訴人方パチンコ事業収入金額に比し昭和三三年度に於て七〇四万円余、同三四年度に於て五六六万円余少なくなる。然しながら原審証人福島渉の証言を斟酌すると控訴人の本件店舗と共栄パチンコ店との客の入場割合の比率が六八・五パーセントであるとの点が果して正確な数値であるか否かに疑問が残るのみならず、右入場割合の比率が直ちにパチンコ機械一台当りの年間収入金額の比率を示すものとはにわかに断定出来ないから、共栄パチンコ店の機械一台当りの年間収入金額に右比率を乗じた額を以て直ちに控訴人方店舗の機械一台当りの年間収入金額とみることは早計である。従つて控訴人の右主張は採用出来ない。
(三) 尚控訴人はパチンコ店に於ては機械の修理、入替等による休業がある為年間営業日数は三五〇日位であると主張するが、原審証人村下美芳、同宮内勇、同福島渉、同砂川瓢の各証言を総合すると控訴人方店舗の営業日数は年間三六五日であると認められ右認定に反する控訴本人の原審に於ける供述は措信し難く、当審証人村下美芳の証言によるも未だ右認定を左右するに足りず他にこれを覆えすに足る証拠はない。
三、次に経費等について検討する
(一) 右経費等の中原判決添付別表一の5公租公課から18雑損失まではその費目、金額について何れも当事者間に争はない。そして同表19の支払手数料、同21の消耗品費、同22の減価償却費については当裁判所も原判決の認めた限度でのみこれを認容すべく又控訴人主張の同表23の借入金利息、24の自動車盗難並に売却損、25の地代家賃は何れもこれを認容し得えないものと判断するのであつて、その理由は原判決理由中以上の各点に関する説示(原判決理由第五項(三三枚目)以下の記載中の当該項目分)と同一であるから、ここにこれを引用する。(但し原判決理由第五項の「支払手数料」の項の(二)の一七行目の「二、七五五、九六五円」を「二六〇万七、六五六円」と、同一九行目の「三、〇八一、〇七八円」とあるを「三〇四万六、七八〇円」と、同二一行目から二二行目の「六、〇三〇円五六銭」を「五、七〇六円三銭」と同二二行目の「三、五二九円三〇銭」を「三、四九〇円一銭」と同項の(三)の九行目の「四、〇六四、五九八円」を「三八四万五、八六四円」と、同一〇行目の「二、五九七、五六五円」を「二五六万八、六四七円」と、「消耗品費」の項の(一)の五行目から六行目にかけの「六二三、七七七円」とあるを「六〇万六、八〇三円」と、同六行目の「七三七、三二七円」を「七三万九、〇四八円」と、同八行目の「一、三六四円九五銭」、「八四四円五九銭」を夫々「一、三二七円七九銭」、「八四六円五九銭」と、同項の(二)の六行目の「九一万九、九七六円」を「八九万四、九三〇円」と、同七行目の「六二一、六一八円」を「六二万三、〇六八円」と「減価償却費」の項の(一)の一二行目の「固定資産の耐用年数に関する省令第五条」を「同令第五条」と、夫々訂正する。)当審証人宮内勇、同村下美芳、同森実、同浅海一郎の各証言並に控訴本人の供述によるも以上の認定判断を左右するに足りない。
(二) 同表20の雇人費について
当裁判所は雇人費についても原判決の認めた限度に於てのみ認容すべきものと判断する。その理由は次の点を附加するほか原判決理由中のこの点に関する認定判断と同一であるから、ここにその記載を引用する。当審証人松崎力、同村下美芳の各証言によるも未だ右の結論を左右するに足りない。
控訴人は、仮に浅海和嘉名義の煙草小売業が控訴人の営業と認定されるとすれば、控訴人は右事業の為に雇人を使用しその給料として一日一、〇〇〇円、年間三六万五、〇〇〇円を支出しているから、昭和三三、三四両年度共右給料を経費として控除すべきである旨主張するが、原審証人砂川瓢、当審証人浜崎正己の各証言によると右煙草小売店は控訴人の本件パチンコ店の建物の一画にあり、パチンコ店従業員が随時煙草小売業に従事出来る状況にあつたと推認されるのであつて、控訴人が特に右煙草小売業の為の従業員を使用していたと認められる証拠はないから、(原審並に当審に於ける控訴本人の供述中煙草小売業に専従の従業員を雇つていたかの如き趣旨の供述部分は当審証人浜崎正己の証言に照し措信し難い)控訴人の右主張は採用し難い。
(三) 同表26の災害補償費等について
昭和三三年二月一一日松山市大街道一丁目二四所在のモナコパチンコ店(モナコホール)から出火して同店舗を全焼したことは原審証人浅海一郎の証言によつて明らかである。そこで右モナコパチンコ店の経営者が控訴人個であるか或は控訴人が代表者である訴外日野産業であるかについて判断する。先ず控訴人が当初右の経営者を日野産業であると主張していたのを後に控訴人自身であると主張するに至つたが、当裁判所も右は自白の撤回に当らないと解するのであつて、その理由は原判決理由第五項(原判決四二枚目)中「災害補償費」の項の(一)に記載するところと同一であるからここにこれを引用する。そこで右経営者が何れであるかについて考えるに、成立に争ない甲第二四号証、同第二六号証の一、二弁論の全趣旨により成立の真正を認め得る同第一八号証によると、モナコパチンコ店の昭和三二年七月分から同三三年三月分迄の娯楽施設利用税合計九五万円余を控訴人が愛媛県松山市事務所へ納付したこと、又控訴人は昭和三二年六月一七日愛媛県公安委員会に対しモパコパチンコ店の設備変更許可申請をなしていることが夫々認められるけれども、右が果して控訴人個人の営業についてなしたものか或は日野産業の営業につきその代表者としてなしたものであるかは右甲号証の記載のみからは直ちに断定することは出来ない。次に当審証人宮内勇の証言中にはモナコホールの経営者は控訴人である旨の証言があり、又右証言によつて真正に成立したと認められる甲第二八号証、第二九号証の二乃至四中にも右と同趣旨の記載があるけれども、右証人宮内の証言によると、同人はモナコパチンコ店の経営者について正確な調査を遂げた者ではなく、松山遊技場貯蓄納税組合(松山市内の遊技場経営者を組合員とし、同経営者が県税である娯楽施設利用税を納税するについて、各組合員から税金を集金して一括して県に納入する等の事務を行つている)の専務理事として、モナコパチンコ店の外観等から見てその経営者は控訴人であると考えているというに過ぎないことが認められるから、右証人の証言及び同人の作成した前記甲号証の記載によつては、未だモナコホールが控訴人の経営にかかるものと認めるに充分でない。又原審における控訴本人の供述により成立の認められる甲第二二号証、原審並に当審証人浅海一郎、同森実、同日野博行の各証言及び控訴本人の原審並に当審に於ける供述中にも右モナコ店の経営者は控訴人個人であつて日野産業ではない旨の供述並に記載があるけれども、後記証拠に照すとにわかに措信し難い。却つて成立に争ない乙第二号証の一乃至三及び当審証人中山常雄の証言によると税理士である中山常雄は日野産業がパチンコ営業を開始した昭和三一年一一月から控訴人に依頼されて同会社の決算報告書の作成、法人税の確定申告書の作成提出等の事務を執つて来たのであつて、昭和三三年度法人税(昭和三二年七月一日から昭和三三年六月三〇日迄の事業年度分)の確定申告書も同人が作成し代表取締役である控訴人の承認を得て所轄税務署長に提出したが、右申告書にはモナコパチンコ店焼失による雑損失(建物、諸設備品の焼失による損失)として、一、九二一万四、一九一円が計上されているほか、近隣の類焼者に対する災害補償金六九〇万円も日野産業の損失として計上していることが認められ、右事実に弁論の全趣旨を総合すると右モナコパチンコ店の経営主体は日野産業であつて控訴人個人ではないと認められる。原審並に当審証人日野博行の証言及び控訴本人の原審に於ける供述中には、中山税理士の前記確定申告書の記載は錯誤によるものである旨の供述があるが、前記中山証人の証言に照して到底措信出来ない。そうすると右店舗からの出火による近隣類焼者に対する補償並に右店舗内の諸設備及び備品類の焼失による損害は何れも日野産業の損失であつて控訴人の損害と認めることは出来ないから、この点に関する控訴人の主張は何れも採用し難いものである。
(四) 同表27、28の外注工賃及び雀球損について
原審証人向井正文、同日野博行の各証言によると控訴人の三男である訴外日野博行は、昭和三二年四月頃から控訴人に代つて、控訴人経営の本件パチンコ店の事実上の経営に当つて来たが、昭和三四年七月雀球経営につき所轄警察署長から風俗営業取締法に基づく営業許可を自己名義で受け、同月二七日より右パチンコ店内の一画を区切つた場所で右雀球を始めたことが認められる。控訴人は、右雀球営業は実質上控訴人の営業である旨主張するが、右営業につき愛媛県知事宛に提出された雀球開始申告書、松山遊技場組合備付の入場税台帳に於ける右雀球営業についての申告者並に納税者が何れも右博行名義となつていたことは当事者間に争なく、而して斯る場合は特別の事情のない限り、営業許可を受け且娯楽施設利用税の納税名義人となつている者が、実質上も当該事実の経営者であると認めるのが相当であると解されるところ、前記向井証人の証言中には、本件パチンコ店に於てはパチンコ営業と雀球営業との会計が共通であつた旨の証言があるけれども、両営業共事実上博行が行うのであるから、両者の会計を各別にしていたか共通にしていたかは、右店舗の従業員でも会計事務を担当する者でない限り判別困難な状態であつたと考えられ、而して右向井証人の証言によると、同人は右パチンコ店に雇われていたが、会計事務を担当していた者ではなく、而も雀球営業が開始された後約一ケ月で退職している者であることが認められるから、両営業の会計は共通であつた旨の前記証言部分はにわかに措信し難いものというべく、その他に原審並に当審に於ける証人日野博行の証言及び控訴本人の供述によるも右雀球営業が、その営業許可名義に反して実質上控訴人の経営にかかるものであつたと認めるべき特別の状況は認められない。そうとすると右雀球営業が実質上控訴人の営業であることを前提とする、右営業の為の外注工賃及び雀球損についての控訴人の主張は採用し得ないものである。
四、次に譲渡所得について検討するに、この点に関する当裁判所の事実認定並に判断は、原判決理由中の「譲渡所得」の項(原判決理由第五項、原判決四〇枚目以下)の認定判断と同一であるから、ここにその記載を引用する。当審に於ける控訴本人の供述によるも右の結論を左右しない。
五、以上認定説示したところによると、控訴人の総所得金額は昭和三三年度に於て一、一三五万九、九五一円となり、同三四年度に於て一、三〇八万〇、五九〇円となること計算上明らかであつて、被控訴人のなした本件再審査決定に於ける控訴人の総所得金額は右両年度共、右認定額の範囲内であるから、右再審査決定は何れも正当であつて何等取消すべき理由は存しない。そうすると控訴人の本件各請求を排斥した原判決は正当であり、本件控訴は理由のないものである。よつて民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 奥村正策 裁判官 林義一)